
PHILOSOPHY
想い
測れるものだけを大事にすると、
測れないものが痩せていく。
都市の研究で得た気づきが、人の内側の構造へと、私の関心を向けさせました。
01
測る側にいた頃のこと
「住みやすさ」を数字にする仕事から、
すべてが始まりました。
スマートシティの黎明期、私は Liveability Index という指標の開発に携わっていました。都市学の知見を、都市のデータと結びつけ、見える形に描き出す仕事です。
その過程で、違和感が芽生えました。── 「数値化が難しい価値が、確かにある。」
それをできるだけ Index に組み込むことが私の仕事だったのに、私の注意が向いていたのは、どうしても数値化できないほうの価値でした。そして、それが意思決定の場面で取りこぼされがちなことが、気になって仕方がありませんでした。
経済学には、これを言い当てた法則があります。グッドハートの法則 ── 測定基準が目標になった瞬間、それは良い測定基準ではなくなる。
たとえば育児です。子どもと一緒にいた時間で育児の質を測ると、スマホに気を取られていた1時間と、子どもの感情に寄り添い向き合っていた1時間が、同じ価値になってしまいます。測ること自体が悪いのではありません。測れるものが目標に変わったとき、測れないものは軽視され、傷ついていかないでしょうか。
この違和感が、Aalto大学大学院の修士論文になりました。タイトルは Beyond Measure ── 測ることの、向こう側。
02
二つの思考様式
計算的思考と、価値合理的思考。
論文で整理したのは、都市計画を動かしている、この二つの思考様式の対比でした。測れる価値と、測れない価値。その両方を、どう扱うかという問いです。
価値を数値化しようとするとき、対象との関係は「使う・使われる」関係になります。計算的思考のもとでは、環境も人も、数字に交換可能な対象です。
逆に、見えない価値に向き合うときに大事なのは、対象と応答し合いながら共に在る関係 ── Response-ability(応答可能性)です。この価値合理的思考こそが、場所らしさや、人らしさが育つ基盤になります。
「共に在る関係」という考え方と、日本の「本音」 ── 不安や恐怖、打算を含まない、純粋な目的や意志 ── が、私にヒントをくれました。環境に翻弄されるのではなく、内側の本音を聞きながら、外側に応答していく。それが重要なのではないか、と気がついたのです。その応答の積み重ねが、人も場所も「らしさ」を取り戻していく力になる。そう確信するようになりました。
ここから、当時環境問題や社会問題に心を痛め、都市という大きすぎるスケールの前では無力感を感じていた私の関心は、都市から個人へ移っていきました。
都市という大きすぎるシステムスケールから、
自分の内側 ── 個人のスケールへ。
03
都市から、一人へ
外側を変えようとしていた時間が、
長くありました。
自分自身や大事な人の生活を、より楽に、より豊かにしたいという想いで、外側の環境を整えようと、都市計画を研究していました。しかし、外側ばかりに意識が向くと苦しくなる、ということを身をもって体験しました。
「自分の内側ではなく、外側ばかり変えようとする」ということは、「いま苦しいと思っている原因を置かれた環境の中に探す」ということです。自分の生活がある場所(国・地域)、社会を形成する人々、学校や会社、時代、経済システムやテクノロジーの進歩。あらゆる方向に原因を探すことは、自分が環境に翻弄されている証拠を、自ら増やし続けることでした。個人が影響を与えることができる範囲は限られており、結局文句しか言えません。やがて被害者意識が募り、それぞれとの関係が歪んでいきます。
私自身、外側に意識が向くほど苦しくなり、バーンアウトを何度も繰り返しました。そしてある時、この意識の持ち方に「もう、嫌!」と心底飽きました。そして、意識を徐々に、外側から内側へシフトしていきました。
今ではこう思っています。環境がどうであれ、常に世界に美しさや優しさを見つけることができる自分でありたい。そして、楽しさや豊かさを創造できる自分でありたい。
そうはいっても、長年かけて出来た思考癖は、一晩で変えられるものではありません。そこで役に立ったのが、建築・都市計画の勉強で身につけた、仕組みを見る力と、それを描く力でした。
04
意識の見取り図
思考や意識という、頭の中や心の中にあって目に見えない情報を扱うには、できるだけ目に見える状態にすると、整理しやすくなります。
例えば、心理学に感情の粒度(emotional granularity)── 自分の感情状態をどれだけ細かく・正確に識別し、言語化できるかを示す概念があります。「なんとなくモヤモヤする、悲しい」という気持ちを、「これは、不当な扱いへの怒り。大事にされたかったという願いだった」と具体的に言語化できる力です。感情を細かく見られる人ほど、感情に振り回されにくいことが知られています。自分の感情を具体的に認識することで、不快感があったとしても、「では好ましい状態にするために、どうしようか」と対処の選択肢を考えられます。
私自身も、自分の感情や原因となる体験を言葉にし、関係図を作ることで、感情と思考の整理をしてきました。そうすることで、心配といった不快感に振り回されることが減り、心身が緩み、楽に感じる体感を、もっと長く頻繁に得られるようになってきました。
私もまだ自分の内側を整えている最中です。それでも、半歩先を行く登山者のように、どこに躓きやすい石があるかをお伝えすることはできます。コーチングを通して、みなさんと一緒に、自分らしさやその場所らしさを楽しめる世界を作れたら嬉しいです。
